大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)16号 判決

被告人 安留徳朗 外一名

〔抄 録〕

昭和三十二年四月二十一日施行された山梨県南都留郡秋山村の村長選挙に際し、被告人安留徳朗は四囲の情勢によつて立候補しようと考えていたので、同年二月一日頃山梨市日下部松定旅館に村長選挙の候補者たる噂のあつた元村長、有力村会議員等を招待しその意向を打診したが、積極的に立候補の意思を表明するものがなく、更に同年三月二十四日頃同村会議員の間で次期村長の人気投票を行つてみたところ、被告人安留徳朗が最も人気があつたので、立候補の決意を固めるに至つたものであるが、このように被告人徳朗が村長選挙立候補の決意の下に瀬ぶみ行為も積極的であつたに反し、これと対立し村長選挙を争うかも知れないと噂の出ていた人々も噂だけに止まり、井上保平ははつきりとその意思がないことを言明していたし、岡戸一司も特に積極的に出場の意思を表示しなかつたし、佐藤文次郎も、その長男佐藤弥一が、前記松定旅館における席上で、父文次郎の立候補に反対していた関係で、文次郎が出馬する可能性が薄く、被告人安留徳朗と村長選挙を争う他の候補者が出馬する気配が薄かつたことは所論のとおりである。しかしこの事から直ちに無投票当選が既に確定した場合と同視すべきものではないし、投票並びに投票取纒等の選挙運動が全然不必要となつたわけではないから、原判示第一の一、二の各金員が投票並びに投票取纒等の選挙運動を依頼しその報酬として供与する趣旨が含まれていないものと断定することはできない。たとい今日人気のある候補者でもその人気を持続したいと思うのが人情でもあるし、無投票当選の可能性があつても、意外の人の出馬により慘敗を喫することがないではないから、気を緩めることなく、自己の当選を得る目的で行動することが十分あり得るところである。原判決が対立候補者の出馬する気配が極めて薄かつたことを認定しながら、その挙示する証拠により、被告人両名が村会議員及び村内有力者多数を自己の傘下に結集して支持者たらしめ、その威力を誇示すると共に、一般選挙人に被告人徳朗支持の気運を釀成させれば、対立候補者の出馬は事実上不可能となり、無投票による当選も得られるし、仮に後日対立候補者が出馬しても、右支持者等は被告人徳朗のため投票及び投票取纒等の選挙運動をするから当選は確実であると考え、当選を得る目的をもつて原判示第一の一、二の金員供与の所為に出たものと判断したのは正当で、無投票当選を期待し投票による選挙を予想せず、従つて投票並びに投票取纒等の選挙運動を依頼する立場になかつたものとすべきではない。

(加納 足立 山岸)

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